船本 おふたりはタクシー運転手としてお遍路の案内をずっとされているから、札所の混みあう時間などもよく把握されていますよね。
徳野 そうですね。団体ツアーなどはだいたい1日に回る札所の数が決まっていますから、朝から夕方までで、どの時間帯がどの札所に大勢のお遍路さんが集まるかというのは、把握できています。タクシーの場合は、大型バスなどと違い、ルートなども選択できますので、たとえば同じくらいの距離にある札所があれば、先にこちらをまわってから戻りますか?というふうにして、できるだけスムーズに回れるようには考えていますね。
新田 どうしても順番通りにという場合には、どの札所がどれくらい混みあうかというようなことも先にお伝えするようにしますし、どこかの札所で団体のお遍路さんと会った場合には、ちょっと先回りできるような道を選ぶようにして、次の札所では、その団体より先に到着するようにするなどはしています。
船本 宿泊する場所と食事などは事前に決まっていますが、お昼などはどうしていますか?
徳野 札所周辺のお店は数軒ずつ頭に入っていますので、その日のお客様のご要望に合わせてご提案しています。昼食の時間についても、ここで食事をとっておくと効率よく回れるなと思えるタイミングでご案内していますね。あとは、ちょっと遠いけれどどうしても、これを食べてみたい、というようなご要望も、可能な限りはお聞きしています。
新田 それはツアーといっても少人数だからこそできることですね。会話のなかでどんな料理が好きか、どこで何を食べたいかなどもお聞きするようにしています。そして、その周辺の美味しいものや珍しいものなど、ご案内するようにしています。お遍路が目的といっても、やはり旅ですから、食や宿は楽しんでいただきたいですからね。
船本 お遍路は、札所をまわることだけでなく、四国のさまざまなものに触れ、人に逢って、そのなかで感じていただくことも多い旅です。それをサポートしてくれる運転手さんによって、本当にいい旅になるかどうかも変わりますから。
徳野 責任重大ですね!
新田 それだからこそ、やりがいがあります。
船本 最後に、この仕事を通じて、これまでたくさんのお客様に出会われたと思いますが、特に印象に残ったことなど、教えてもらえますか?
徳野 ずっと遍路に出たかったけれど、今まで来られなかった、というご高齢の女性のお客様をご案内した時、旅も終盤になってうちとけてくださったのか、来られなかった理由をお話ししてくださったんです。行きたいと思っていたらお姑さんの介護が始まり、見送ったあとに今度こそ行こうと思ったタイミングで、ご主人が亡くなられて機会を逸してしまったと。その方が、結願寺で涙を流してお礼をいってくださった姿を見た時には、ああ、この仕事をしていてよかった、と思いました。
新田 旦那さんを亡されてお遍路に出たというまだ若い女性の方をご案内したことがありました。元気いっぱいでいつも冗談を言って周囲を和ませてくださるような明るい方だったのですが、その方が最後は号泣されて。ずっと気を張ってらしたんだろうと思うと、こちらまで胸が熱くなりましたね。
徳野 少人数のツアーとはいえ、やはりお気遣いをされる方が多いんですよね。ツアーの最中はそういった姿は見せないようにされて、最後になって想いを吐きだされるようなお話を聞くというのは多いですね。
船本 いい意味で張りつめていた気持ちが溶きほぐされていくんでしょうね。それを聞いて、受けとめてくれるという運転手さんとの信頼があってこそ、心のうちを話せるようになるのだと思います。
徳野 長い時間、ご一緒させていただくので、いろんなお話をお聞きするんです。ツアーにおいては、私たちが案内役ですが、人生においては大先輩のお客様が多く、私もツアーに出るたびに、いろんなことを学ばせていただいています。
新田 いろんな思いを持って参加されるお客様がいらっしゃるので、その思いに沿うように、お邪魔にはならないように、と思っています。
船本 ご家族の方から、マイカーや団体バスのツアーでは年齢的に心配だったけれど、タクシーでご案内いただくなら安心、とお申込みいただくことも増えてきました。ご本人やご家族から、また新田さんや徳野さんにお願いしたいという声もいただくんですよ。
徳野 それは本当にありがたいことですね。私たちは、自分たちにできる最大のおもてなしをするだけですが、一緒に回ってくれてよかったと次もお声をかけてくださると、やっていてよかったと心から感じられます。
新田 また来たよ、といってくださるお客様や家族が安心して送り出してくださったというお話を聞くと、ますますご期待に応えるご案内をしなければと身が引き締まります。でも、だからこそ、一生懸命ご案内できるのだと思います。
船本 これからも、お客様に安心してお遍路の旅をしていただけるように、おふたりともよろしくお願いいたします。今日はありがとうございました。